ミネアポリス 痛みの研究日記 20100402
『海の史劇』吉村昭。。
日露戦争といえば『坂の上の雲』が有名。素晴らしい作品だ。情景が目に浮かぶくらい練られた文章で書かれている。司馬作品の真骨頂だが時々、目につく歴史観(いわゆる司馬史観)、それがウザイ。まあ~一読する価値は十分にある。日本人、特に秋山真之(天気晴朗なれど波高し、の電文で有名)などをドラマの語り部に当時の日本の事情が書かれている。一般の日本海海戦は東郷平八郎が有名だが、バルチック艦隊の進行海路の予想や世界を震撼させた敵前T字反転などバルチック艦隊撃滅作 戦全体を立案したのは秋山である。非常におもしろい人物だ。
吉村氏のこの作品。日露戦争、特にバルチック艦隊と日本との関わりを描く物語であるが上記した司馬作品とやや異なる。状況証拠による心理描写があまりない。つまり登場人物の声にかこつけた作者の思想の押しつけが少ない。ないとは言わん。また話をバルチック艦隊を語り部にロシア側から見た日本海海戦が書かれている。ある意味視点が替わっておもろい。なのであの海戦に至までの胃の痛むような日本側のドラマはない。当たり前だ、ロシア側にそんな日本の事情など分かるはずがない。
自殺とうつ病ホットライン
ただ日本からすればとんでもない、到底勝利することが無理な相手、バルチック艦隊を迎えるに当たっての陰鬱とした当時の社会状況がありありと描かれる。西洋列強がアジア侵略を企てまくる現状、日本人が慢性的に西洋列強,特にロシアの圧迫を受けていたことは濃厚に表現している。そもそも何故、日露戦争が勃発したのか?そんなことも知らない日本人が、先の大東亜戦争をいとも簡単に批判する。大東亜戦争のなんたるかを理解するにはこの時代の国際背景を知らずに語ることはできないはずだ。大体、日本人!日露戦争の意義を外人に自信をもって説明できるか?まあ~ええわ。
当時の日本国民に蔓延するロシアの脅威、心理的圧迫感。私、現代でも十分にそういう感じの圧迫を感じる。どう考えても日本の現状は日露戦争当時の空気に似ている気がする。周辺国を中心にアメリカも交え日本破壊工作。おまけに現在の政権は明治政府と異なり国を守るどころか売ろうと高らかに宣言する売国政権だ。加えて驚くべき事に当の日本人は何がおもろいのか日本を切り売りしようとするアホを支持する。
nationla頭痛意識の週
バルチック艦隊を破った理由は有名すぎるので今更言うまでもない。この本のおもしろいところは戦争を集結させるためなんとか講和条約をロシアと結ぶべくアメリカに向かった全権大使小村寿太郎の苦難やロシア人捕虜の日本での扱い、ロシア海軍陸軍の高官のその後など、いわゆる"その先"が描かれていること。特に日露講和の苦労はきっつい。見かけ上、戦勝に沸き返る日本国民、実際は破綻寸前の国家財政。その落とし所を求めてアメリカポーツマスの会議に向かう小村の心境が描かれる。
つくづく思う。この日露戦争を見ても戦争とは政治戦だということ。確かに大東亜戦争ではその観点に欠いた、正確には政治戦という意味合いを理解した政治家軍人は� �されてしまった。
話を戻す。日本は英国と同盟関係。バルチック艦隊がロシアを出てアフリカを回ってインドを通過する間も執拗な英国の妨害(といえる)を受けたし、中立を宣言する国がロシアの艦船に補給などしないよう日本は盛んにアピールした。日本企業も凄い。もしロシアに補給活動などすればその国とは取引しない、など、目先の利益を捨てても国益を優先させた。さらに元々、親ロシアのアメリカに対し日本政府は時の大統領ルーズベルトと学友だった金子堅太郎らを投入、日本支持を取り付けた。もちろんアメリカはロシアの満州付近での利権独占を疎んでの日本支持にすぎない。国家国民が一体となって国難にのぞんだことが分かる。
体重減少とサラソタ
また日本はヨーロッパにスパイを送り込みあらぬ風評をたて、そしてロシア、ニコライ2世の専制政治を転覆させるべく革命組織を激しくあおったことも有名。日本兵の勇敢さは前提としても、武力だけでない総合的な戦略が最低、ロシアに負けなかった、局地戦ではロシアを圧倒できた理由だ。実際、ロシアには戦争継続の財政的余裕はあったが日本にはなかった。ただロシアは国内が革命の機運で揺らいでいた。つまり戦争を終わらせたい動機があった。もちろん日本は激しい諜報活動でそれを見抜いていた。ものすごい駆け引きである。
しかし小村寿太郎ははかなりの貧乏くじを引いた男だ。日本史上有数の貧乏くじ男ちゃうか?今となれば小村の功績は大きい� �日本の国力を考慮すればあれでも立派なくらいだ。ただ日本の財政が破綻寸前であることを知らない大衆は小村を国賊扱いするのもやむをえない。ただ難しいな。国力を国民に公表すればロシアに足下みられるわけだ。しかし戦いはほぼ連勝続きで,国民からすれば勝っているのになんであんな和平の条件になるねん?となるのは仕方がない。情報があふれているのにそれを知ろうとしない現代の大衆とは状況が全く違う。
当時でも大衆というのは厄介な存在だったようだし、既に日本の運営はその大衆の影響力がかなりあったとも言える。ただ大衆のいうとおりにやってれば高確率で国は衰退すると思う。ロシアから賠償金を取れないことになり怒った一部の大衆が汽車や駅を破壊しはじめたそうだ。なぜなら汽車の登場で馬車とか人力車の需要が激減したからだという。これに類似した事例が多々発生したそうだ。大衆というのはいつもこんなもんだ。本質を見極められない。が、少なくとも当時の大衆は国を外国に売ろうとする政権を支持するほどの大バカではなかった。そこが違う。
小村寿太郎と日露戦争終結に向けてのいきさつ、もっと知りたいと思った。『海の史劇』。文庫本で600ページくらいの 本。話の展開がspeedyなのであっという間に読了できます。
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